しばらく温めていた横須賀散歩を決行するきっかけになったのは冨永昌敬監督、オダギリジョー主演の『僕の手を売ります』の最終回の終わり間際に出てきた、高台の墓地から市街地をのぞむ印象的な風景だ。横須賀だということがすぐわかり、映っている建造物を確認してどうにか場所を特定したのだった。
横須賀中央駅直結のモアーズシティでまずランチ。同様に年末から温めていた定食系のものを食べたいという望みをここで果たす。8階まであがって大戸屋で鯖の炭火焼き。滋味深い。
駅の対面の路地をどんどん入っていくと行く手は崖で、そこを急な階段が折れ曲がりながらのぼっていく。40メートル近く一気にのぼった。さすがに息が切れる。だが、ながめがすばらしい。中心的な市街地と見晴らしのいい崖がこれだけ近接している街はめずらしいんじゃないだろうか。少なくとも首都圏ではほかにないと思う。『僕の手を売ります』にでてきた風景は頂上から数段降りたところの眺めと完璧に合致した(このログに載せたのはそこより下から撮った風景。一棟だけそびえるタワマンとそれ以外の低層の街の対比がおもしろい)。頂上は龍本寺という日蓮宗のお寺。近所の人以外の人気はない。
ここから先は、横須賀の醍醐味である迷宮的にはりめぐらされた起伏のある路地を分け入ろうとぼんやり考えていたが、それを下調べなしにやるのは難しいし、あっという間に終わってしまいそうだ。行き当たりばったりでいくことにする。前回来た時の記憶が新しい三崎街道を横切って上町へ。左手に望み通りの路地を見つけたので入り込む。住宅の間をなだらかにのぼってやがてくだる。車が通れない配送業者泣かせの道だ。最後は崩れた石段の上を廃屋の軒をかすめておりるスリリングな展開になった。
その先は広大な不入斗公園。園内のメインストリートを通り抜けるとまた路地に入り込む。今度は車も通行可能だ。狭いのに一方通行でなくて難儀している車を見かける。行手で急坂を這い上ることを覚悟したがなんの歩行者用のトンネルが口を開いていた。出口から衣笠方面の眺望が見える。これまた絶景だ。
階段を降りて衣笠駅や商店街には向かわず手前で左折。実はこれで、横須賀中心部に戻らずに、より半島の先端に近い方を選択したということにまだこのときは気づいてなかった。公郷町(くごうちょう)というところから長いトンネルを通ると京急の線路があり右手に進んでいくと京急本線と久里浜線の分岐駅堀ノ内があった。割とローカルな駅前だ。ちょっと本線に沿って進み、そのあとで他の選択肢はないかと右手の路地に分け入ってみた。そうするとまた公郷町が近づいてきて、それはないなといくつかのベクトルの合成演算をして北久里浜方面へ。北久里浜はひょっとすると久里浜と同じくらい店が多くて賑やかな場所だと知ったのは割と最近のことだ。
ここでやっぱり浦賀に向かおうという気になった。わかりやすくつながる道はなかったので崖下の細い道を通って一歩一歩接近していく。やがて浦賀につながる広めの道に出た。坂を上った先にはトンネル。思ったより短い。その先は地名が浦賀に変わりちょっと町らしくなる。でもそこからが遠いのだ。
ようやく大通りに出た。左手奥に京急の駅を示す白地に青が見えた。右手の砦のような壁は横須賀市美術館だった。浦賀といえば最果てという感じがしていたが、ドラッグストア、スーパーマーケット、美術館がある大きな街だった。
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